執筆始め22

小説を最後まで書き上げるということは、思った以上に難しいことでした。一番最初にそれをしようとすると、自分の中で、「何か一つのことを、犠牲にしたのではないか?」と思えるようなことがあったのだ。もちろん、それは最初の一回だけのことで、それが何だったのかということも、すっかり忘れてしまっていた。もっとも、この「犠牲にした」ということも、かなり後になって気づいたことで、それだけ、その時のことを忘れずに、ずっと感じながら、小説を書いていたということであろう。しかし、「何かを犠牲にした」という経験を思い出した瞬間、今度は別の記憶が消えたような気がした。それだけ、小説を書くということは大きなことで、一つ何か大きなことを得るとすれば、何かを忘れてしまったり犠牲にすることもあるのではないかというようなことを考えたりもするようになったんですよね。犠牲や、記憶の欠落というものが、執筆に必要だということであれば、最後まで書けない自分に、才能がないと思ってしまった過去を思い出すと、それも無理もないことだったのかも知れない(つづく)